03:陰謀大臣の計画


さて、場所は変わって城内。

さすがに皆忙しそうに働いてるね。ああ、僕って孤独?

違うよ、僕だってそれなりに忙しいんだよ? 言い訳じゃないよ?

磨かれた廊下の上を、女中さんや兵士が歩いて行く。

と、人が途切れたそこにアーレンが現れた。

普段のオドオドビクビクぶりに拍車が掛かった様子で──。

……ははん。良い暇つぶしが見つかったね!

アーレンは気付かず、『いかにも何か後ろ暗い事をしています』って顔である部屋に入った。

どうやらアーレンは将軍の部屋に入ったみたいだ。

でも、この国の将軍って顔が怖くて性格鬼だから、アーレンが近づくとは思えないんだよね。

だってほら、彼って町でもとりあえず怖そうな人からは必要以上に距離を置いて通り過ぎそうな人じゃない?

さて、それじゃあ推理してみよう。


1、苦情を言いたくても言えない兵士から用事を言いつけられた。

2、女中に用事を言いつけられた。

3、とりあえず誰かに何か言いつけられた。


……何だかどれも一緒だねぇ……。

アーレンて、王子なのにパシってる?

いや、王子にパシらせるこの国の住人が凄いのか。

はたまた王子が情けなさ過ぎるのか。僕は後者に一票

本気な冗談はさて置き。聞き耳を立ててみましょうか。え、犯罪だって? 

ははは、何をいうんだい、刑事ドラマでもやっているじゃないか

にしても二時間ドラマって、決定的な瞬間に出くわす事の多いこと多いこと。

実はタイミング見計らってるんじゃないかってくらいだよね。うん、それはいいんだ。


『だけど将軍……本当に大丈夫なんですよね?』


アーレンの声だ。

と、いうかやっぱり腰が低いなー。こうなるともう何だか可哀相なレベルだ。

それに対して将軍は尊大な態度。一応王子様ですよ、将軍。

気持ちは分かるけどね!


『勿論。それともアーレン殿は私を信用していないので?』

『そそそそそんな事はありませんですはい!』


やたら慌ててるけど、睨まれたのかな、こりゃ。

敬語が崩壊してるけど、そんなの気にしちゃいけないのかな。

そのまま急いで続けるアーレン。


『し、しかしあの暴力姉上……じゃなくて、ちょっと過激な美人姉上様は人間の規格外ってそうじゃなくて人並み外れた才能をお持ちだから……』


……冗談抜きでかなり厳しく躾けられてるみたいだねぇ……。

『姉上』と『様』は普通は連続して使わないから、良い子は真似しないでねー。

しかし、そうするとクリスについての話かな?


『そんな事は判っている。実際何人のヒットマンが血の海に沈められた事か……!


王女に沈められたのかヒットマン。情けないのかクリスが異常なのか。

後者が今のところ僕の中では有力かな! 多分皆だってそうだろう?

いやぁ、チャンピオンベルトをあげたいねぇ


『やや、やっぱり姉上様に刃向かうなんて無理なんだああああああああ』

『アーレン殿、今更そんな事を言わないで下さい。クリス王女が居なくなれば、次の王はあなたですぞ?』

『うっ……!』

『どうです? クリス王女は、国を治める器としては全く向いていない。むしろ、弟君である貴方の方が適任だ。そうは思いませんか?』


アーレンも向いてないよ。

ああ、突っ込む人が誰もいない部屋って嫌な感じだね!


『いや……それは……』

『とにかく、私に万事お任せくださればすべて良い結果に終ります。いいですね?』

『は、はい……』


力無い声で、アーレン。

つまり、将軍はアーレンと組んで、クリスを狙ってるって事かな。

まあ、自分の思うがままに暴走するテロ王女よりもオドオドして陰気で根暗で小心者の王子の方が操作しやすいもんね、あっはっは。

多分アーレンはそこら辺気付いてないんだろーなー。

あ、気付いてても逆らえないって可能性もあるけどね。余計に情けない話になるけど!

と、いうか将軍、クリスに喧嘩売るとはある意味天晴れ








それじゃあ噂のクリスの所を見てみよう。彼女は机に座りつつ爪をがしがし噛んでいた。

あーあー、折角手入れされてたのに噛んじゃって。爪から口を離すと、ペンを片手に物憂げに天井を眺める。

ふっくらしたピンクの可愛い唇から漏れる言葉は──


「さて、ベリーの闇討ちはいつにするかな…


……全然可愛くなかったね。

というかベリー、ご愁傷様

そしてクリスの前の羊皮紙には、


『城内で銃火器を使おうとして申し訳有りませんでした』


の文字が、延々と綴られている。どうやら反省文みたいだけど、むしろ怨嗟の言葉みたいだね

と、クリスは突然何かを思いついたのか、ぱっ、と顔を上げる。

その顔は、喜びに輝く美少女……だけど、台詞は……ねぇ?


「そうだ! 見てやがれベリーの野郎! 死ヌ程後悔させてやるぜ畜生!」


はーい、ここで一つ確認です。

貴女の職業は、本当に王女様ですか?

くっくっく、と悪役じみた笑いを浮かべながら羊皮紙に何かを書き付けるクリス。

『ベリー暗殺計画その152 〜アーレンの馬鹿を使おう〜』

152回目なのかよ

ちょっと多すぎない? 多すぎやしない? それとも暗殺目指すときってこれが普通なの?

僕純粋に人生の表街道を生きてきたから分からないよお母さん!

いや、そこじゃなくて、落ち着いて考えるとやっぱりアーレンは誰からも使われるのか。

可哀相にねぇ……。まあ、アーレンだからいいか


「今度こそ完璧だっ! 首洗って待ってろやベリー!」

「誰に首洗えだと?」

「はっ!?」


後ろから聞こえた声に、しまったという表情をするクリス。

現れたベリデアッツ──ベリーはこれ以上無いくらい忌々しそうな顔で立っていた。


「んだっつーの貴様は! ユーリィ様がいないからってサボりぶっこいてんな!」

「手前こそ主人に向かって命令するなっつーの!」

「雇い主は陛下だ! 貴様は護衛対象ってだけだろーがっ!」

「似たようなもんじゃねえかよっ! 乙女の部屋に勝手に入ってくるんじゃねえ!」


オトメノヘヤ?

おそらく、ベリーはその意味を考えあぐねたのだろう。

数秒間活動を停止する。


「……乙女?」


どこにそんなものがいるのかとでも言うように目線を彷徨わせる二十歳の男。

青筋を立てたのは十六歳の少女。


「ふざけんな手前っ!」


クリスはぱんと自分の胸を叩く。

内装にピンク色やフリル、レースの使われた部屋を示し、堂々と言い放った。

……あ、部屋の隅にはバラの花とかも飾ってあって、綺麗だねー。


「私以外に誰がいるというのだ、手前が乙女か!?」

「──武器防具ならまだしも釣り天井やら落とし穴やら隠し扉とかある部屋を乙女の部屋なんぞと言うかぁぁぁっ!?」

最近の流行だ! 頭の古いジジイには判らんのだボケ!」


きっぱりと言い切るクリス。

……はっはっは、そんな流行いつの時代にあったよ

え、一応聞いておくけどさ、これを読んでる君、もし乙女と呼ばれる年齢だったとしても、そんなもの部屋にないよね?

武器防具とトラップの収集が趣味で忍者屋敷をこよなく愛し週末の予定はサバイバルゲームですってお嬢さんはちょっとすいませんそれは言わないで下さい。


「嘘つきやがれこの小娘がぁぁぁっ!」


はい、第二ラウンド開始の鐘だ。

今日もこの国は平和です。




Back  Next