01:暴走王女と護衛隊長


昔々。

とは限らないけど、とりあえずここではない世界のお話。

ていうか、こんな奴らいたらやだ。


「死にくされっ!」

「誰が死ぬかクソ女っ!」


うわぁ、初っ端から毒々しい会話だね。

しかもこれの片方が王女だなんて言ったら、君、信じるかい?

信じなくても実際そうなんだけどさ。

うん、信じてもらえなさそうなのは勿論分かるよ。


「いい度胸してんじゃねえかっ!? 跡形も無くデリートすんぞ手前!?」


さて、それじゃあ紹介していこうか。

綺麗な金髪を風になびかせ、戦意に燃えた青い瞳で前を見詰める少女──。

これが、我らが王女、クリスカナディス・エルス・シエーヌヴァルだ。

長いって? そうだよねぇ。僕も舌噛みそう。

普段はクリスって呼ばれてるみたいだね。

名前と性格合ってないだろって? あはは、僕もそう思うよ!

ごめんね世界中のクリスさん! 僕が謝ってもどうしようもないことなんだけど。

ちなみに彼女は十六歳。

普通ならそろそろ外見だけの見合いとか政略結婚とかありそうなんだけどねー。

この性格じゃあ……三十秒で破局だ。

しかもあれだ、下手すると国際問題になりかねないよね!


「やれるもんならやってみやがれ腐れ王女! 国家権力になんざ屈しない!」


次は、護衛隊長ベリデアッツ・ファンク。ベリー隊長、って呼ばれてるんだってよ。

短い黒髪をちょっと立てた、どこにでもいそうな兄ちゃん。

それにしても、いかも紛い物っぽくて性格捻くれてて暴力的でも、一応は

一国の王女に対してこんなこと言うなんて、彼も中々の猛者だと思うな、うん。

常識的に対抗してたら対抗しきれないんだろうねー。

二十歳だけど、その腕を見込まれて隊長なんだって。

聞こえはいいけど、要するに生贄だよね。

彼以外に王女様と渡り合える人が居ないんだってさ。

これで彼の人生決まったね。貧乏くじばっかりの人生。


「姫様お止め下さいぃぃぃぃいぃぃいぃ!!」


ついでにこの人は大臣のディアバン・メルキオール。御年五十三歳。

でろでろ涙を流しながらクリスを止めようと必死だ。

可哀相にねー。中間管理職の悲劇ってやつかな? 大臣は中間管理職でもないか。

まあ、この場合の役割的には似た様なもんだしさ!

下に任せれば怠慢と罵られ、上に任せれば無能と誹られる。

だから自分で止めにきてるってわけ。訂正。ベリーよりも彼のが貧乏くじだね。

もうお年だってのに、大変なことだ。まあ頑張って。

薄情だなんて言わないでね? 語り部は手を出せないのが普通なんだから。


あ、ついでに僕はマルキウェイ。

この物語の語り部だよ。どうぞ宜しく。

それじゃあ、続きを始めようか……。




「毎回毎回勘弁してきたが、今日だけは我慢ならねぇ!」

「はっ、我慢出来ねぇって何をする気だ手前!? うだつの上がらねえ隊長止まりの癖して!」

「好きでこんな役職なわけじゃねえこん畜生っ! 貴様が城で大人しくしてりゃあこんなことしねえで済むんだよ聞こえてるかオラ!」

「手前と違って年じゃないんで耳は聞こえてるよハゲ!」

「誰がハゲだ誰が!? この不良娘っ!」


クリスの挑発に顔を真っ赤にするベリー。ここら辺はまだまだ修行が足りないね。

修行以前に二十歳と十六歳の口喧嘩にしては随分低レベルだけどさ!

それで調子に乗ったのか、クリスはふふんと鼻を鳴らした。

腰に手を当てて見下すその姿は、王女様というより女王様


「あああだから姫様お止めになって下さいぃぃぃいぃぃ」

「くそ喧しい! いっぺんこの馬鹿に自分の立場思い知らせてやる!」

「ほほう、どうしてくれるって!? 貴様こそ自分の立場思い知れ!」

「姫様ぐべっ!?」


クリスから肘打ち喰らって倒れるディアバン。

姫様にエルボー喰らって倒れる大臣てのもまた壮観。

あー、でも痛そうだなぁ。泡吹いてるし。もうお年なんだから、無理しないほうが。

ま、好きで無理してる人ってそんなにいないもんだしねー。


「くくく……これで今度こそ手前とおさらばだっ!」


丸っきり悪役の台詞だけど、王女様だよ。一応。

とりあえず、そう言ってクリスが取り出したのは小型バズーカ

平和そうな国なのに、エグイ武器あるよねー。

突込み所がありすぎるんで必要最小限にしておくからね! 後は突込みセルフサービスだよ。


「負けるかよっ!」


対する青コーナー、ベリー選手が取り出したのは、なんと狙撃ライフル!

……ベリー、護衛なのに何で狙撃用?

あははは、ていうか王女様撃ってどうするよ

元々中距離用だと思うんだけど……ていうか、二人とも接近戦でそんな物使うな


「思えば散々、手前には苦汁を飲まされて来たからなぁ、この恨み、晴らさで置くべきかっ!」

「どこのゴーストだ貴様はっ! 大体、元凶はいつも貴様だろがっ!?」


ああ、なるほど。それでベリーはいつも後始末に駆り出されると。

ディアバンが中間管理職の辛さなら、こっちは下っ端の辛さだね。


「五月蝿せぇ!!」


語り部に突っ込み入れないで欲しいな、うん。

しょせん、組織に組み込まれれば下っ端なのは実際そうだし。


「城から抜け出すわ、軍事演習に飛び入り参加して壊滅させるわ、森一つ全焼させるわ、ドレス着たまま銃ぶっ放すわ! 何なんだ貴様は!? ていうか俺が何で貴様の尻拭いせにゃならんっ!?」

「ふん、下っ端はせいぜいその程度だろ」

「んだと!?」

「苦しゅうない、その役目、わらわが与えてやってるのじゃぞ、光栄に思え」

「ふざけんな馬鹿テロ女ぁぁぁっ!」


二十歳に十六歳。

これから先、育って彼らも親となり、新しい世代に命を引き継ぐ。

しかし、こんなんが次の世代を担っていくのかー……。先は見えたね。

世界壊滅だ。


「とまあ下らん思い出話は此処までだ! 私がピリオドを打つ!」

「勝手に思い出にすんじゃねえ! 貴様にだけは打たれてたまるか!」


あら、本格的に戦闘開始か?

二人はそれぞれ獲物を構える。遠慮? そんなもの微塵もあるもんか

と、その時。


「──クリスカナディス様」

「げっ!?」


横から掛かった声に、クリスが悲鳴に似た声を上げた。



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