ヴィルとラティ <2>




「廃れてますねぇ」
「うるさいな。どうせ誰か迎えるわけじゃないんだからいいでしょ」

見てすぐに素直な感想を漏らした私に、ヴィルモアはちょっと顔を横に背けつつも反論。
城としては規模はそれほど大きくは無いが、確かに屋敷というには大きすぎる。
しかし、夜中にお子様が見たら間違いなく言うだろう。
『お化け屋敷』と。
外壁は濃緑のツタがこれでもかという程に這い、窓のカーテンは全て下ろされ蜘蛛の巣が張っている。所々錆びた鉄門は荘厳というより侵入を拒絶する雰囲気が漂い、庭に手入れされた花は無く雑草がはびこっている。
当然のことながら、ヴァンパイアであるヴィルモアには必要ないのでかがり火なんかも焚かれていない。照らすのは月光だけで、驚くぐらいにしんとした風景。
訂正したい。
私も言う。『お化け屋敷』だと。
ヴィルモアは言い訳をするように言葉を繋いだ。

「大体さ、仕方ないでしょ管理人が一人しかいなかった上に年取ってるんだから」
「でもこれじゃ誰かが廃城だと思って入ってくるのも仕方ないと思うんですが」
「中は一応片付いてるからいいんだってば。入るよほら」

鉄門に手をかけ、彼はそれを押し開く。
門は錆びてはいるが、それでも細かいところは手入れがされていたのだろう。ほとんど軋みも無く私たちを招き入れた。玄関までの道も大雑把には草刈りがされていて、蛇でもいるんじゃないかと警戒しながら草の中を進む事にならずに何より。
先に扉まで辿り着いた彼は、鍵穴の前で一瞬手を振る。と、微かに聞こえる金属音。

「開けたよ」

何の感慨も無く言うと、片手で重そうな扉を難なく開き中へと入るヴィルモア。
……魔力の鍵じゃなくて、実際の鍵を呪文詠唱も何も無くあっさり開錠するって結構凄いんじゃあ……。いや、今更この程度気にしていたらどうしようもないのだろう。多分。
何しろ相手はヴァンパイアだ、人間の常識を押し通そうとしてはいけない。
そう言い聞かせ続いた私だったが──即座に、常識を主張しなければいけない時もあるのだ、と痛感する。
ヴィルモアはそんな私の様子に気付かないようで、変わらぬ声で告げた。

「じゃ、一応中案内するから」
「素直な感想を述べてもいいですか」
「何? 中はそれなりに片付いてると思うんだけど」
「見えません」

そう、幾ら外に月光があり、所々から差し込んでくるとはいえ、屋内は灯りが無ければ暗いものだ。
ヴァンパイアであるヴィルモアには月光だけでも充分なのかも知れないが、人間の私はそうはいかない。

「ああ……そっか、忘れてた」

軽い言葉と共に、指を鳴らしたと思わしき音。
同時に、廊下の燭台全てに火が灯った。
──……問答無用でこれも凄いが、何だか激しく無駄遣いな気がするのは私の気のせいか。
やっと見えるようになった廊下は確かに片付き、装飾品の類にも埃は積もっていなかった。
もっとも、灯りの炎がゆらゆら揺れるのに合わせて影も移ろうので、激しく不気味だった。
人気無いし。
なまじっか片付いているだけに、そっちの方が不気味かも知れない。感覚とは難しい。

「とりあえず君が使えそうな部屋があるからそっち行こう」
「犬小屋とかいうオチじゃないですよね」
「そこまで酷くないよ。馬屋かな」
「夜逃げしますよ」
「冗談冗談。さ、行くってば」

冗談とはいうが、このヴァンパイアどこまで本気なんだかさっぱり分からない。
元からこんな性格なのか蘇ってどっかがねじくれたのか。
どっちにしても今の性格が改善されるわけではなさそうなので私にはどうでもいい話だが。
これで本当に馬屋に案内されたらその頭を殴ろうと思い、前を歩く紅髪の相手を見上げた。
生きている私と、なんら変わりないように思える生ける死者。
動いて話し、思考する。血を求め、残虐性を多く持ち合わせるものだというが、そんなの人間にだっている。すると、彼らと私たちを隔てるものは、死という曖昧な概念でしか無い訳だ。
曖昧だが絶対──矛盾を含んでいる様で、そうでもない気がする。難解だ。
と、視線に気付いたのかふとヴィルモアが顔を向けた。

「何?」
「……いえ、何にも」
「そう? 嫉妬とかは止めてね、自分が負けてるからって」
「誰が顔のことだと」
「顔なんて言ってないでしょ」

こいつ滅ぼしたい。
やけに澄んだ心の中で、私の深層意識は確かにそう告げた。
上がりかけた拳を断腸の思いで留めた私に拍手喝采を浴びせたまえ観客の皆よ!
いっそ両手を上げて見えない観客にアピールでもしようかと思った時、

「ふが」

相当ひねくれた気分になっていた私の鼻が何かに潰された。
柔らかいけど硬いその感触に、鼻を押さえながら顔を上げるとヴィルモアの呆れた顔。
どうやら私は彼の背中に突っ込んだらしい。
止まるなら止まるといいやがれこん畜生。

「君さ、目、見えてるよね? 見えてるよね?」
「嫌味たらしく二回も聞かないでくれますか」
「だったらそれなりの行動を取ってくれる? ほら、ここ君の部屋だから」

私の抗議を受け流して指差された先の扉は、城の外見と比例して古そうな赴き。
幸いな事に馬屋ではなかった。その点は感謝しよう。……あれこれは当然の待遇では。
鍵は掛かっていないようで、私がドアノブを引くとそれはあっけなく開いた。
窓から入る月光と、廊下からの光りで見える分にはベッドと鏡台、そして棚が二つ。
さすがに多少埃っぽいが、大きさとしてはまずまず……いや、一人で使うには十二分。
背後でヴィルモアがもう一度指を鳴らすと、部屋の隅のランプにも火が灯った。

「とりあえず僕も一旦部屋に戻るから、荷物とか整理しておきな。案内の続きはそれから」

言い残して彼はさっさと扉を閉めてしまう。
扉を開いて廊下を見るも、長いそれの左右の何処にも紅の髪はない。
怪奇現象そのものだが良く考えれば彼は存在自体怪奇現象である。
ともかく私は与えられた時間に言われたことをしようと思ったのだが、そもそも整理する荷物がほとんど無かった。旅から旅へと渡り歩いていれば荷物も必要最低限だけになるもんである。

「鏡台があっても化粧道具も無いしねぇ」

ひょいと私は鏡を覗き込んだ。
黒い髪に十人並みの顔、少々垂れていて眠たげに見えるらしい目をした娘っこが映っている。
勿論、私は死人じゃないので鏡に顔が映らないなんてことは無い。
何でだか知らないが、死人であるヴァンパイアは人と同じように行動できても鏡には映れないそうだ。
鏡は現実を模す。
と、いうことは、ヴァンパイアである彼らは現実には存在しないということなのだろうか。
生あるものと共に死したものが並んでいるということは「現実」では無い?

「でもさっき鼻ぶつけたのは事実だし」

痛みを思い出して鼻を擦る。
どうでもいいことだ。
私がここですべき事は、生と死についての考察なんて小難しい事ではなく『お仕事』の為。
ふと思い出して、腰の後ろに括りつけていたナイフと、小瓶を鏡台の上へ置いた。

ナイフが模すは聖印。
小瓶の中身は聖水。

瓶の中身はしばらく揺れていたものの、やがて安定した土台の上で凪を迎えた。
私はじっとそれを見下ろす。
それはアンデッドを、ヴァンパイアを──ヴィルモアを殺す事も出来る凶器。

「……嘘じゃないけど、隠し事ってのはあんまり良い気分じゃないよなぁ」

ぽつりと呟いたそれは誰に聞かれることも無い。
ただ、ランプの芯が焼けるじじ、という音が空間に響いた。
赤い光に包まれていた時間は、思っていたよりも長かったらしい。
扉をノックされた音で、私は我に返った。

「ラティ犬? 寝てないよね?」

ヴィルモアの声。
私は一瞬背中に走った冷や汗が引くのを待ってから、息を吐き出す。

「……犬つけないでいいですってば」
「ラティ番犬?」
「もうそのネタはいいです」

軽口を叩いて扉を開けた私の顔は、さっきまでと何ら変わりなく出来ていた。
と、思う。これこそ拍手喝采。




◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




「そういえばさ」
「はひ?」
「……数日でそこまで順応出来るのはそれなりに知性ある動物だって事なんだろうから、せめてもっと知性ある様に振舞ってくれないかな。何そのクッキーの取り分を欲張った子供の袋みたいな頬」
「見苦しいなら見苦しいと素直に言ってくれませんか」

口に含んでいた焼き菓子を飲み下して私は平坦な抑揚で言葉を紡いだ。
実際の所、たかだか数日で雇い主の前で茶を飲む自分のこの順応具合にはそれなりに驚いている。良い意味で。人間やっぱり、何処でも生きていけるもんだと思った。例えそこがヴァンパイアの城であろうとも。
もっとも、この状態はひとえに仕事の楽さによるものだ。
ヴィルモアが起きているから、当然今は夜。
昼に動くべき私が夜にも起きているのは、何も身を粉にして徹夜で働いているからではない。
まずヴィルモアが挙げていた掃除だが、本人が言った通りに使っている部屋は極僅かで、他はずっと埃を被りっぱなし。
使わないからいいよ、という言葉をそのまま受け取ったので他の部屋を片付ける必要は無しと考えている。
普通の使用人が行うべき食事の支度も、ヴァンパイアである彼にとっては不要なもの。
彼は夜に出かけて、他人から勝手にご馳走になって帰ってくるのだ。
そんなことでやる事が少ない私は、仕事をはじめて五日目にして既に昼まで寝る、農家の方に怒られそうな生活リズムになっていた。
昼から仕事を始めて夜までに終わらせ、そしてヴィルモアが食事に行くまでの間は話し相手になる。
……まあ、先程ご覧の通り、話し相手というよりお茶のついでの雑談なのだが。

「素直に言ったら言ったで君、口ごたえするでしょ?」
「口ごたえではなく正当な反論です」
「それが口ごたえって言うの。覚えといてねその内容量少ない頭に刻んでさ」

そしてそんな仕事ぶりでも、このヴァンパイアは文句も言わない。
発言がいちいち腹の立つものなのも変わらない。
彼は手を伸ばして私の焼き菓子を一つ奪ってその口の中へ収めた。
これは私も知らなかったのだが、ヴァンパイアでも物を食べる事は出来るそうだ。
ただしヴィルモア曰く、通常の食物では『存る』為のエネルギーを補充するには足りないからやっぱり血が必要だとのこと。
乾いた音を立てて焼き菓子は噛み砕かれ、ヴィルモアが飲み込むまでの少しの間。
彼は唐突に言葉を発した。

「──聖アリーゼ剪滅隊のメンバーがこの周辺に来たって聞いたんだけど」

赤い瞳は虚空を射抜くように、天井の近くへ向けられる。
私はこれ以上取られ無いようにと焼き菓子に伸ばしていた手を止めた。
顔が強張る。

聖アリーゼ剪滅隊。
物騒な名を持つその実体は、国家ではなく教会が保有する殉教者集団だ。
一人で千の悪魔を打ち滅ぼしたという伝説の聖女アリーゼの名を冠し、武術、魔術、知識、信仰──何かに長けた者で構成されている。
人の噂に上る事はあっても、実際の人数、入隊方法などは一般には明かされていない。
そして、不穏な名を持ちながらも彼らは人間相手にその刃を向けることはしない。
彼らが容赦無く葬り去るのは、悪魔でありアンデッド。
──当然のことながら、ヴァンパイアなどは目の仇に近い。
ヴァンパイアにとっても勿論、葬り去るべき相手である。

動きを止めた私に、ヴィルモアの視線が降りる。
しばしの視線の交錯。赤い瞳は何の色も映していない。
彼はやがて、ふう、と息を吐いた。

「良かった、名前くらいは知ってたんだね。これで『何ですかそれあたらしいたべものですか』とか聞かれたらどうしようかと思った」
「……なんですかその私に対する認識」

軽い調子の彼の悪態に、私の強張りも解けて突っ込みを返す余裕が生まれる。
ヴィルモアは足を組みなおすと、途端に不遜な様子で鼻を鳴らした。
夜を統べる闇の王たる種族には相応しいが、会話相手としては甚だしく不適だ。

「うん、馬鹿だけど思ってたほどひどい馬鹿じゃなくて良かった」
「それってつまり馬鹿だって言ってますよね」
「間違ってないでしょ?」

にっこりと笑う顔は天使なんてもんじゃなく悪魔そのもの。
誰だこんな相手に顔の良さ与えたの。付け上がるに決まってるじゃないか。
白皙の不死者は椅子の背に頭を凭せ掛け、目を閉じる。

「まあ、そんな連中来ても問題にはならないだろうけど……面倒事はあんまり好きじゃないんだ」
「大した自信ですね」
「僕は自分を過小評価する気は無いよ。──そんな訳だから、ラティ犬。町とかに買出しに行ったとしても、妙なこと口走ったりしないでよ?」
「今非常に不可解なお言葉を頂いたのですが説明願えますか一応私人間なんですけど」
「うっかり『私の雇い主、ヴァンパイアなんですよー』とか言わないでねってこと」
「……聞きますがヴィル、あなたどれだけ私のことどれだけ馬鹿だと思ってます?」
「犬並」

溢れんばかりの笑顔で即答されたその言葉に、今すぐにでも窓から叫びたい気分になった。
叫ぶ言葉は決まっている。
──『ここに失礼極まりない極悪ヴァンパイアがいます誰か助けてー!』だ。
本能にまで訴えかけるその衝動を必死で押さえた私は、小さな嘆息と共にポケットへ手を入れた。
指の先に触れる冷たい感触のそれを引き出すと、ヴィルモアへと向かって差し出す。

「……そういえば、これ」
「何、それ?」
「いいから手を出して下さい」
「虫?」
「どこのガキの悪戯ですか」

無造作に出された彼の手を掴む。冷たい。冷たい。
熱が通っていないとはこういうことなのか、と思う。
私がポケットから引き出したその無機物とほとんど変わらない温度。
その掌に、私は小さな鏡の形をしたネックレスを落とす。
ヴィルモアは一瞬きょとんとした顔をしてから、自分の掌に乗せられたそれを眺めた。
親指と人差し指で描く円程度の大きさの小さな鏡。
彼はその中に映らないだろうに、鏡に向かって視線を注ぐ。そして一言。

「呪いのアイテム?」
「恩人にせめてものお礼をと思った正直者に向けて失礼じゃないですかそれ」

五日目ともなると突っ込みも堂に入ってきた。
しばらく興味があるのかないのか分からない様子でそれを眺めていたヴィルモアだったが、やがてそれを胸ポケットに落とす。
黒い服に銀色が飲まれて消えると、彼はまた人の菓子に手を出してくる。これは私のだ。
心が狭いとかいわない。

「……ま、くれるなら貰っておく。呪いだとしてもラティ犬の呪いじゃ大したことなさそうだ。精々図太くなるくらいかな」
「速やかに返却を要求します」
「本気の冗談だよ」



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



更に数日後の昼間、私は町へと繰り出していた。
幾ら仕事が楽だといっても、掃除のときのこまごましたものはどうしても必要になるし、何より私の食料が無い。
パン屋のおっちゃんと最少貨幣単位での値切り合戦を展開した私は勝利感に浸っていた。
なるたけ安く買い叩く技術は、家計に追われる主婦と路銀の倹約に努める旅人には必須スキルなのである。……たとえそれが子供用の安い菓子の値段よりも低い金額だったとしても、馬鹿にしちゃいけないのだ。
鼻歌交じりに地面を踏み締め、駆ける子ども達を避けて城へ戻る道──とは違う方向へと向かう。
まだ温かいパンの入った袋を片手に、目的地に辿り着いた私はその建物を見上げた。

全てが白の石で構成されている。
最も高き場所に位置するは聖印、壁に彫られたるは聖画。
今は礼拝でも行っているのか、私以外に人は無く、声が僅かに中から漏れてくる。
大抵の町に存在する建築物──教会だ。
私は無言でその扉へと目を移した。扉の上部には古代魔術文字でこう刻まれている。
──『我らが光、全てを照らす』、と。
勿論、私は古代魔術文字なんか読めないのでただ単に知識としてその文字列を知っているだけなのだが。口をついて出た言葉は、一般の人はまず知らないであろうその言葉の続き。

「『我らが光は闇を駆逐する』」

それが自分の耳に入った瞬間、私はがくりと頭を垂れる。
光が闇を駆逐? 出来るわけねぇ。
教会の前で思うには些か不謹慎だが、どうせ光がありゃ闇だって出てくるのだ。
どっちか片方だけなんて無茶苦茶は無理だろう。
私が光だけの存在──例えば優しくて慎ましくて心綺麗で──とかになったら自分でも相当気持ち悪い。
だけれども、そう、だけれども。

「人は闇より光を欲しがるもんなんだよねぇ」

頭を掻きながら呟いた言葉も、間違っちゃいないと思う。
溜息をついて、私は今度こそ戻ろうと足を来た道へと向けた。
と、その時、誰も居なかったはずの場所に響く声。

「ラティーシャ」

知る人がいないはずの場所で、自分の名を呼ばれて振り返る。
同名の他人、という可能性もなくはないのだが──その声は明らかに私に向けられていた。

「ラティーシャ=フォルゼン」

聞き流す事を許さないかの様に、今度はご丁寧にもフルネームで呼んで下さった。
何処の誰だか分からないが、無駄に親切だ。
振り返った先には、足を速めることも無くゆったりと歩いてくる人間。
短く切り揃えられた髪の色は、私と同じ黒。
通常旅人が着用する旅着と大した変わりはないが、どこか雰囲気の違う詰襟の服をまとった男。

いるはずのない、見知った顔。

「…………うわぁ」

思わず間抜けに声が漏れる。
聞こえてはいないと思うが、この相手は地獄耳だったので聞こえているかもしれない。
男は私の前で止まった。
身長差があるので見下ろされる様な状態──いや、身長差が無くてもこの相手は確実に見下ろしてくるだろう。
今は丁度レンズに陽光が反射していて見えないが、その奥では鋭い目が細められている事と思われる。あんまり良い思い出の無いその顔に、私はダッシュで逃走したい気分に駆られた。
しかし、逃げたところでこの相手は私より足が速いのであっさり捕まるのがオチだろう。
目を合わせ続けるのもどうかと思うので、私は上げていた視線をちょっと下げる。

そうして見えたのは、胸に吊るされている聖印。
教会関係者か、それに親しいものなら分かるだろう。

──聖アリーゼ剪滅隊の構成員である、証。

「お……お久しぶりです、イーサクロス」

先輩に向けるにしては些か引きつった笑みを浮かべた私を、どうか責めないで欲しい。





戻る 次へ