『叫ばないで下さい』


窓の外響いた君の声は何。
呼んでいるのは一体誰。

雨音が全てを消して君の声と姿を連れ去った。
滴る雫の中逆さまになった君が何かを呼んだ。
──誰を?

僕ではないのは確かで。
僕ではないのだけは確かで。
一体誰を呼んでいるのだろう。

僕以外の名前を呼ぶのは止めて欲しいけれど。
君はもう手の届かないところへ行ってしまった。
雨粒は鏡の国へ繋がった水溜りに潰れてしまった。

君の姿も弾け飛んだ。

誰かの名前を叫んでいた君は飛沫になって消えた。

耳鳴りも止んだ。





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